長男の誕生は、僕の起業の大きなきっかけだ。
僕は、講談社という出版社(この雑誌を出しているのも講談社で、この連載の担当は元同僚だ)で編集者をしていた。

インタビューで「大企業を辞める勇気がよくありましたね。どうしてですか?」と質問をされる。その時に、「長男が2歳で、次男は妻のお腹にいる時に起業したのですよ」と答えると、もっと驚かれる。

でも、子供の誕生は、起業の足かせではなく、後押しだった。
 
「子供のために、仕事を頑張る」「子供のためならなんだってする」そのようなセリフを、よく耳にする。僕も子供ができたら、そんな風に思うのだろうか。

長男の妊娠でお腹が大きくなった妻を見ていても、全然そんな考えが湧いてこない。

女性は、毎日、赤ん坊が成長するのを体で体験し、時間をかけて母となっていくのかもしれないが、僕にとって父になることは想像力を必要とする作業で、すごく難しいことだった(実感が湧かないことをもっともらしく言うとこんな感じで、子供の頃から周囲の人に些細なことを立派なことのように言うと突っ込まれることがあります)。

子供の名前について話し合ったり、子供服を買ったりしても、父親としての責任感なんてどこからも湧いてこない。生まれてきたら、感情は変わるのか?

出産は、立ち会いだった。「どうぞ」と看護師さんに声をかけられて、妻が横たわるベッドの脇まで進む。

生まれて間もない長男が、必要最小限の処置だけを受けた状態(ぐちゃぐちゃの状態ということです)で、そこにいる。

どう表現するといいのだろう。あまりにも不思議すぎて、神秘的すぎて、人類の偉大さ、DNAの不思議さに、感動が押し寄せてくる。

それまでほとんど他人事の出産だったのに(せっかくだからいつか漫画家に出産時の資料写真が欲しいと言われても困らないように写真を撮ってまわっていた)理由もなく、涙が溢れる。

子供の泣き声はしっかりしている。体重も標準よりあって、元気いっぱいだった。しかも、明らかにもう僕に似ているのが、鼻のかたちなどでわかる。

言語化しづらい感動が心に押し寄せている一方で、僕は、赤ん坊のたくましさを感じていた。
瞬間的に、ここにいるのは、自分とは別の生き物だと直感した。そこにあるのは、一個の個体で、僕の意志で自由にしていいものではなかった。

どれだけ僕と似通っていようとも、その存在は、僕と妻の延長線上にあるものではなく、自立した存在として尊重しないといけないものだった。

分身ではなく、「他人」。その時心に浮かんだ、子を他人と思う気持ち、それが何なのかを僕はしつこく考えた。

それでこんな風に思った。

画像: #1 子供も大人も自由だ

僕にできることは、この子が好き勝手、自分のやりたいように生きるのをサポートすることであって、生き方を提示することではない。

「子供のために、仕事を頑張る」というのは、この子を一個の存在として認めていない、傲慢な考え方だ、と。

最終的に起業を決断したのは、2012年の4月。長男が1歳半、妻が次男を妊娠しているときだった。

それで、すぐに会社に辞める報告をして、どんな会社にするかを必死に考え、2012年10月1日、ベンチャー企業・コルクを創業した。

今は、さらにもう1人増えて、息子が3人いる。子供が増えることで、家庭の楽しさはどんどん増えていく。

でも、やっぱり、仕事への気持ちは変わらない。僕は、僕が人生を楽しむために仕事をする。

ちなみに、僕の妻は非常に健康的なのだが、自分は体が弱いと思っていて、出産も難産を予想していた。結果はというと数時間で出てきて、理想的な出産だった。

それで僕は、本当に素直な気持ちで「楽な出産でよかったね」と話しかけた。

すると「楽な出産なんてあるわけないでしょ。『おつかれさま、頑張ったね』と言えないのか」とひどく怒られた。今でもたまにその時のことで怒られる。

どれだけ自由に生きようとも、妻に話しかける時は、ひと呼吸待って考えてからのほうがいいと学んだ出産でもあった。

子供が生まれる前は、子供によって自分の生き方が縛られることを恐れていた。

いざ生まれてみると、子供に縛られていることにして、挑戦しないことを肯定する甘えがあるだけだった。子供は親を縛ろうなんて全然していなかった。

子供は、自由に生きたらいい。僕も、僕がやりたいように好きに生きていいのだ。成長していく赤ん坊の姿を見ながら、そんな当たり前のことにやっと確信を持てた。

どうすれば、明日急に死んでも後悔しないような、自由な生き方ができるのか? そんなことを考えだしたら、会社を辞めて起業しようという気持ちに自然となってきた。

子供の誕生が、起業の勇気を与えてくれた。子供を理由に諦めてしまえるような挑戦なら、本気の挑戦ではないのだ。

This article is a sponsored article by
''.